アメリカの精神分析家カレン・ホーナイは「結局、すべてのノイローゼには生命力に対する抑圧があるのです」と言っています。「どんぐりが樫の木になるように」ひとにも自然から与えられた、生き生きとした「本来の自分」があります。例えば、何かに熱中しているとき私たちは、何も余分なことを考えず、静かで、自由で、生き生きとした自分に気づく瞬間があります。あるいは深い孤独の日々を過ごすとき、私たちは悲しみと絶望のなかでもがいた末のある日、自然の力によって「生かされている自分」に気づき、深く安堵(あんど)するかも知れません。
しかし日常の生活のなかで私たちは自分のなかのそうした生き生きした部分に触れることなく、言い換えれば本来の自分から遠く離れた、こころの浅いところで暮らしがちです。そして人生に不可避のさまざまな不安を、自分が幼い時から慣れ親しんだ様々な方法で解消し、そこから逃れようとします。そのような方策からは却っていろいろな弊害(へいがい)が生じることがあります。強い不安あるいはうつなどの症状はその一部であるといえるでしょう。
私たちは自分のなかにある、ものごとを深く感じる力を大切に育てたいと願います。そのための共同作業が精神療法(カウンセリング)です。生命の声に耳を澄まし、自分らしく生きるとき、私たちは自分のもっている生き生きした部分に支えられ、様々な症状も徐々に軽くなっていくでしょう。
近年、薬物療法は大きな進歩を遂げています。副作用の少ない、効き目の優れた向精神薬が数多く開発され、多くの人々がその恩恵を受けています。向精神薬の作用の仕組みや神経新生作用の仕組みも徐々に明らかにされてきています。
しかし当然のことですが、薬物療法も決して万能ではなく、それだけでは場合により一定の限界もあります。私たちのクリニックでは薬物療法に偏ることなく、精神療法と薬物療法のどちらも大切にして、バランスの取れた治療をこころがけています。 |